発 明 入 門 講 座
〔2週間で知的財産権の基礎知識が身に付く〕
講 師 : 中 本 繁 実    テキスト : はじめて学ぶ知的所有権(工学図書刊)


3日目
「先発明主義・先願主義・先使用権」

 (1) 出願書類を書いて出願の準備をしよう
 ここで、新しい作品を考えたとき、この作品の商品化を実現させるためのプロセスを一緒に考えてみましょう。
 最初は、作品の企画書を作ることからスタートするのが一般的です。
それで、企画書がOKであれば、おおざっぱな設計図(説明図)を描きます。
そのとき、出願書類を書いて出願の準備も同時にすすめてください。
 つぎは、試作品を作ります。それも手作りで結構です。ここでも、ムリをしてはいけません。
 そして、テスト(実験)をして、「○・△・×」などの評価を付けて各種データを取ってください。その結果があまり良くなかったら、不具合なところは、さらに改良を加えることです。
 それでよし、これでOKというときに準備しておいた書類をもう一度みなおしてから出願してください。
急いで出願をしてしまうと、あとから、商品化が実現できそうな新しい内容を思いついて、それを追加したくても、追加することはむずかしいからです。
 新しい作品を開発し、完成度を高めて、商品化を実現させるために、このくりかえしの作業が大切なのです。
 これが、ごく普通の新しい製品を開発するときのプロセスです。
 たとえば、未完成の作品を完成させるまでのプロセスは、恋をして、結婚するまでと、良く似ているといわれています。だから、一般にたとえばなしとして使われるのです。
 ここで、思いつきの作品の商品化を実現させるまでのプロセスを簡単にまとめてみましょう。

  製品を開発するときのプロセス
アイデア・思いつき
     創 作
      ↓ 企画書
      ↓   設計図(説明図)
      ↓     試作品
      ↓       テスト(実験)
      ↓         改 良
      ↓           ………
     未完成→→→→→→→→→→→→完成(出願)
       (※随時創作事実を残しておく)

 (2) 商品化の実現の準備
 ○○○の不便を解決して、新しい作品を考えた時点はスタートラインです。
 商品化の実現の準備です。
 この時点では、とうぜんだが作品は未完成です。
 相手のことを“好き”と意識しただけです。
 そして、その後、試作品を作って、テストをして、使いやすさや効果を確認します。
 その結果が、まずければ、さらに改良を加えなければならないのです。
 それで「これならいける、商品化を実現しても大丈夫!」というときに、特許の出願をするのが一般的です。
 うまく結果が出なければ、試作、テスト、改良を何度もくりかえすことが必要です。
 だから、未完成の作品をすぐに特許庁に、出願の手続きをしてはいけないのです。
 だって、数カ月後あるいは数年後にこんなはずじゃなかったのに……、とならないためです。
 発明家が新しい作品を考えるときでも、会社で新しい作品を開発するときも、このプロセスはだいたい同じです。
 そこで、出願を急ぐより、まず、試作品を作って、テストをして、作品の完成度を高めることが先だ、といいたいのです。

 (3) 1日も早く未完成の作品を完成させよう
 作品の着想から、商品化の実現のメドがつかめる(完成する)までに長期間を要するケースが多いようです。
 だからといって、ノンビリしていると、その間に他の人(会社のときは、同業者)に先に権利を取られてしまうケースも考えられます。
 可能性としては大です。
 だから、情報をたくさん集めて、1日も早く未完成の作品を完成させることです。
 では、もしもですが、未完成(?)のままで出願してしまうと、どうなるのでしょうか。
 たとえば、近い将来、つぎのような問題がおこってきます。
 1年後あるいは2年後に、作品の内容をさまざまな角度から検討した結果、改良することになりました。すると、さらに素晴らしい作品ができました。
 それで、いよいよ商品化の実現の見通しもつきました。
 作品の内容も良くなりました。最初のときと、内容もだいぶ変わってしまいました。
 商品化の実現に向けて、作品を改良したわけです。だから、いい意味でとうぜんの結果です。
だけど……。

 (4) そう簡単には補正(訂正)はできない
 試行錯誤を繰り返しながら、やっと、完成しました。それで、1年後、2年後に、その内容を訂正(補正)したいと思いました。でも、手続き上の制限があってむずかしいのです。
 完成度が高くなっているのに、要旨変更(内容の変更)になってしまい、簡単には変更ができないこが多いのです。
 商品化がみえてきたのに……、くやしいでしょう。だから、出願を急ぐ前にやることがたくさんあるのです。
 ここで、外国の出願について、少し説明をしておきましょう。
 たとえば、新しい作品を考えたとき、内容の保護のしかたも国々によって多少違います。
 でも、だからといって、手軽に外国に出願するというわけにもいきません。
 問題は、多額の諸費用がかかることです。
 このように考え方が違います。だから、ここで大切になるのが作品を創作したときの日付(○年○月○日)です。その内容の事実です。
 そのためには、○○○の作品を○年○月○日に創作しました、といえるように作品を創作した内容の事実を、随時残しておくことです。
 それを証明できるように、公証役場を利用する人もいます。
 郵便切手の日付印(消印)を利用する人もいます。

 (5) 先発明主義と先願主義
 作品の保護のしかたは、その国によって決まっています。
 だから、あなたの作品を○○の国の「特許などの知的財産権」として認めてもらうためには、その国に出願し、登録することが必要です。
 たとえば、私は日本の特許に出願をしています。だから、米国に同じ内容の作品を保護してください、といってもそれはムリですよ、ということです。
 やはり、米国にも同じ内容の作品を出願して、登録しないと、米国の独占権は取れませんよ、ということです。
 外国の特許の権利を取ることは、とってもカッコいいと思います。でも、問題があります。それは出願するときの費用が高いことです。
 個人のレベルで考えると、経済的な面で大変です。
 それでも、出願したいときは、良く考えてください。
 また、どの国でも、出願されたものは、形式的な審査をして、その登録の要件をチェックして登録します。これを審査主義といいます。
 ところが国々によって違いがあります。
先に作品を発明した人を発明者にします。先発明(せんはつめい)主義といっています。
あるいは、先に出願した人を発明者にします。先願(せんがん)主義といっています。
……、といったように考え方の違いがあります。
 先発明主義と先願主義です。
この制度は、国々によって多少違っています。
米国は先発明主義です。
 日本は先願主義です。

 (6) 先使用権
 新しい作品を先に考えた人には、先に使用する権利「先使用権(せんしようけん)」があります。
 だから、いつでも「○○○の作品は、○年○月○日に創作しました」……、といえるようにしておくことです。
 そのことを先使用権といいます。
 そのとき「○年○月○日に新しい○○○の作品を創作しました」
 ……、といった内容の事実を残しておかないと、先に使用する権利があるのに、その作品を作れなくなってしまうこともある、ということです。
 そんなことになってしまったら、会社は大変です。
 その結果、研究費のムダ、人件費をムダにしてしまうこともあります。
 いままでの、努力がすべて、ムダになってしまうのです。
 ただ、先使用権を主張するためには、発明者が、すでに、その作品の実施をするために準備をしていた、ということを明らかにしておくことが必要です。
 そこで「考えた作品(発明)の内容」の書類を書くときは、たとえば「この作品の実施をするために、友人と出資しあって任意団体をつくりました」……、といえるように、最初にそのことを詳しく書いておくことが大切です。


1日目  「産業財産権(工業所有権)とは何か」
2日目  「“発明”とは何か」
  ↓   ↓   ↓   ↓   ↓   ↓
4日目  「同じ日に同じ内容の作品が出願されたら」
5日目  「産業財産権(工業所有権)と著作権との違いは」
6日目  「産業財産権(工業所有権)の保護の対象は」
7日目  「ゲームの遊び方(ルール)は特許?」
8日目  「新規性・進歩性の意味は」
9日目  「先願(先行技術)調査が必要か」
10日目  「会社で考えた作品(職務発明)は」
11日目  「権利がおよぶのはどこまでか」
12日目  「実施権にはどんな種類があるのか」
13日目  「特許を出願をするときに、試作品も添付するのか」
14日目  「出願審査請求書は、いつ提出するのか」