知的財産権入門講座
講 師 : 中 本 繁 実    テキスト : はじめて学ぶ知的所有権(工学図書刊)


連載 6
意匠という知的財産権
「ハート形のバケツ」のはなし

 奈良にエビス(株)という会社があります。プラスチックでバケツを作っている会社です。しかし、大手メーカーが同じような作品を安く作るので、同じものでは、とてもかないません。そこで、デザインで勝負と考え出したのがハートの形のバケツです。さっそく、それを意匠に出願しました。
 権利が取れると、ハート形のバケツは、エビス(株)が15年間(意匠の権利期間)、独占できます。したがって、他社は勝手には作れません。このとき、もしも、知的財産権の知識がなくて、意匠に出願をしていなければ、他の会社がすぐにモデルして同じものを作ってしまいます。
独占権(意匠の権利〕がないわけですから、とうぜんのことです。
 そこで、ピンクのハート形のバケツを作って売り出したのです。そうすると、かわいいし、きれいなので、女子学生が小物入れとして部屋の片隅に置いて使うようになり、発売して半年で約14万個も売れるヒット商品になったのです。わずかなデザインの変化が威力を発揮するのです。
 それにしても、大衆のデザイン感覚は鋭いです。ハート形の持つ機能についても、先端が尖っているから、水を注ぐにもこぼれにくく、使いやすいのです。
 持ち運ぶときも、ハート形の凹部が腰にうまくおさまるのでさげやすいのです。

 ◆意匠はなぜ必要か
 商品の売れ行きは、その商品の機能、品質の優秀さばかりでなく、外観からの美しさ、すなわちデザインがいいか、悪いか、によって左右されます。人は、誰でも美しいものに憧れます。
 男女関係でもそうです。男性でも女性でも、同じです。
 美しい人をみるとフラフラとなって一生をあやまることさえあります。
 「教養も健康も同じなら、美しい人の方がいい」などというのはあたりまえのことで、たいていのとき、多少の欠点があっても美しい人がいい、というのが通り相場になっています。最近は、女性の方がハンサムな人を求める心が強いようです。たとえば、台所用品が「実用というより、美しいものでなくては売れない」と、いうのはそのためです。
 消費者は、同じ性能であれば、美しいものを買うからです。


連載・1  あなたの作品は5つの権利で守られる
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連載・3  特許という知的財産権「雪見だいふく」のはなし
連載・4  特許という知的財産権「洗濯機の糸くず取り具」のはなし
連載・5  実用新案という知的財産権「ドーナツ形の枕」のはなし
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連載・7  商標という知的財産権「タフマン」はなし
連載・8  著作権という知的財産権「オセロゲーム」はなし
連載・9  発明学校に参加しよう
連載・10  知的財産権を取ろう
連載・11  発明コンクールに応募しよう
連載・12  先願主義だからといって、出願を急いではいけない