知的財産権入門講座
講 師 : 中 本 繁 実    テキスト : はじめて学ぶ知的所有権(工学図書刊)


連載 5
実用新案という知的財産権
「ドーナツ形の枕」のはなし

 若い夫婦に、かわいい赤ちゃんが生まれました。
 オギャーと子供が生まれてから、いい意味で、親というものは、心配の絶えることがないようです。
 最初に、この夫婦が悩んだのが、約半年後のことです。赤ちゃんのやわらかい後頭部が、扁平になっているのです。
夫婦はびっくり!「いつも仰向けにばかり寝かせて、やわらかい後頭部を圧迫しているからだわ」と、思ったのです。
 そのとき、ご主人が「では、どうすれば、赤ちゃんの後頭部が扁平にならないか?」と、考えはじめたのです。
すると、数日後「やわらかい後頭部を押さえなかったら扁平にならないだろう」と、気が付きました。
あたり前のことです。あたり前のことですが、自分の赤ちゃんだからこそ考えた作品です。そこで、後頭部を押さえないように、中央をくり抜いて“ドーナツ形の枕”を作ったのです。これを、使ってみると、扁平がだんだん直ってきたのです。この作品「ドーナツ形の枕」、N社が500万円で買ってくれました。

 ◆ 実用新案の対象は物品に限定される
 物品というのは、一定の形状をそなえたもの、または機械、道具のような構造をもったものと考えてください。物品でも、一定の形や構造をもたない地金としての合金、砂糖や小麦粉のような粉体などは実用新案の対象になりません。
 @ 物品の形状
外部から観察できる物品の形状をいいます。たとえば、断面が円形の鉛筆をころがらないようにするため、その断面を六角形にしたようなときです。
 A 物品の構造
物品の空間的、立体的に組み立てられている構成をいいます。したがって、化学構造のようなものは含まれません。
 家計簿の表等紙面に表示された仕分け表などは、物品の構造として取り扱っています。
 B 物品の組み合わせ
単独の物品を組み合わせて使用価値を生じさせたものをいいます。
たとえば、ボルトとナット、かるた、トランプなどがその例です。
実用新案は、無審査(平成6年1月1日)になりました。したがって、これからは、実用新案的なものでも特許に出願した方がベターです。


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